「うちの社員はよく頑張ってくれている」——その言葉が、会社を止めている
深夜10時のオフィスに、明かりがついている
ある中小企業を訪問したとき、社長がこう言いました。
「うちの社員は本当によく頑張ってくれますよ。毎晩遅くまで。ありがたいことです」
画面には、Excelと格闘する社員の背中。月末の請求処理が終わらないのだと言います。顧客リストを別のシステムから手でコピーし、金額を確認し、請求書を1件ずつ作って送る。毎月のことです。
社長は誇らしそうでした。でも私には、別の景色が見えていました。
「忙しい」の中身を分解してみる
日本の中小企業は本当によく働きます。厚生労働省の調査によれば、中小企業で働く人の平均残業時間は月20時間を超えています。
しかし、OECD(経済協力開発機構)の労働生産性ランキングでは、日本はG7最下位が長年続いています。1時間働いて生み出す付加価値が、他国と比べて低い。
つまり、よく働いているが、効率的には働いていないのです。
この矛盾の原因は何でしょうか。答えは、多くの場合「忙しさの中身」にあります。
日本の職場における「忙しい業務」を分解すると、多くの割合を占めるのが次のような作業です。
- 手作業でのデータ入力・転記
- 紙の書類の確認・整理・ファイリング
- 毎月繰り返す同じフォーマットの資料作成
- メールや電話での確認作業
- 複数のシステムを行き来するコピー&ペースト
これらに共通するのは、判断が不要で、繰り返し発生するという特徴です。人間にしかできない仕事ではない。それでも人が時間を使っている。
「頑張り」と「成長」は別のことである
経営者にとって、社員が遅くまで働いている姿は頼もしく映ります。しかしその「頑張り」の内訳が、繰り返し作業や確認業務だとしたら、それは成長でも付加価値でもありません。
消耗です。
このような状態が続くと、組織には静かな弊害が積み重なります。
ベテラン社員が「この作業、本当に私がやる必要があるのか」と感じ始めます。優秀な人ほど、早くそれに気づく。そして転職を考えます。残った社員には、さらに作業が集中する。悪循環です。
一方で、経営者からは「みんな忙しそうだから、新しいことを頼めない」という声が聞こえてきます。新しいサービスを始めたい、業務を改善したい——でも誰も手が空いていない。成長の機会を、日常の繰り返し作業が奪っているのです。
本当に忙しいのか、非効率なのか
あなたの会社の「忙しさ」の正体を確認してみてください。
毎月同じ作業を繰り返している業務はありますか?ベテランでなくてもできる作業に、ベテランが時間を使っていませんか?「前からそうやってきた」という理由だけで続いている手順はありますか?
もしいくつか心当たりがあるなら、その忙しさは成長の証ではなく、改善すべき非効率のサインです。
社員が遅くまで頑張っているその時間の一部が、仕組みや自動化によって解放されたとしたら。その時間で、社員は顧客と向き合ったり、新しいアイデアを考えたり、スキルを磨いたりできます。
「よく頑張ってくれている」から、「うまく働いてくれている」へ。
その転換が、これからの中小企業に求められる経営の変化です。
次回は、「忙しい業務」の中から自動化できるものとできないものを見分ける方法を解説します。