社員が辞める本当の理由——「給料の問題」と片付ける前に確認すべきこと
退職願を受け取った日
「一身上の都合により……」
採用に3ヶ月かけ、1年かけて育てた社員からの退職願。Bさんは、仕事もできて、取引先からの評判もよかった。
引き止め面談で聞いてみると、返ってきたのは「給料をもう少し上げてもらえたら……」という言葉。社長は翌月から昇給を約束しました。しかしBさんは、結局辞めました。
なぜでしょうか。
「給料」は理由ではなく、出口である
離職の研究を長年続けてきた人材領域の調査では、「給料への不満」は退職理由のランキング上位に入ります。しかし実際には、給料への不満は本当の理由を言えないときの代替表現であることが多いと言われています。
人は「こんな作業ばかりで成長できない」「自分の仕事に意味を感じられない」とは、なかなか言えません。上司や会社を傷つけるかもしれないから。だから「給料」という無難な言葉を選ぶ。
では本当の理由は何か。
厚生労働省の調査によれば、若年層(20〜30代)の離職理由の上位には「仕事の内容・やりがい」「職場の人間関係」が並びます。そして近年増加しているのが、「業務量が多すぎる・非効率な環境への疲弊」という声です。
優秀な人ほど、早く気づく
非効率な職場環境の問題は、優秀な人ほど早く気づくことです。
能力のある社員は、こう思います。
「なぜこの確認作業を毎回手でやっているのか」 「この情報、別のシステムに同じものがあるのに、また入力している」 「このレポート、自動化できるはずなのに、なぜ毎月3時間かけているのか」
最初は改善提案をしてくれます。「もっとこうすればいいのでは」と。でも組織が動かない。「前からこうやってきた」「今は変える余裕がない」という返事が続く。
しばらくすると、提案しなくなります。そして静かに転職活動を始めます。
採用コストより、改善コストの方が安い
社員1人の採用にかかるコストを試算してみます。
- 求人広告費:20〜50万円
- 採用担当者の工数:数十時間
- 研修・育成期間(半年〜1年):給与を払いながら戦力外の期間
- 引き継ぎによる既存社員への負荷
- 顧客・取引先への影響
合計すると、1人あたり数百万円という試算が一般的です。
一方、その社員が辞めた理由が「毎月3時間かかる非効率なレポート作業」だとしたら、そのレポートを自動化するコストは数十万円以下で済む場合がほとんどです。
「採用」で人を補充し続けるより、「改善」で人を留める方が安い。
それでも多くの会社が改善より採用を選ぶのは、問題の根本が見えていないからです。
「働きやすさ」は待遇だけではない
社員が「ここで働き続けたい」と思う環境には、2つの要素があります。
一つは処遇(給与・福利厚生・働く時間)。もう一つは**仕事の質(意味・成長・達成感)**です。
どれだけ給与を上げても、毎日同じ単純作業を繰り返す環境では、優秀な人は離れます。逆に、仕事に意味を感じ、成長できる環境があれば、多少の待遇差は補えます。
自動化・標準化・業務改善の本当の意義は、コスト削減だけではありません。人が「人にしかできないこと」に集中できる環境を作ることです。
それが、これからの時代に社員を引き留める、最も根本的な答えのひとつです。
なぜ日本企業で業務改善が進まないのか——その構造的な理由は、別記事「なぜ日本企業は標準化できないのか」で詳しく解説しています。